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連載 トップスキーヤー海和俊宏・渡辺一樹のSNOW TALK
第19回「三連覇の壁」 渡辺一樹
21世紀最初の全日本スキー技術選手権の栄冠は宮下征樹と本間綾美の頭上に輝いた。三連覇を目指した柏木と白河は共に破れてしまった。かつて幾人もの名選手が連覇の難しさという壁の前で足踏みをしてきた、越えられそうで越えられない壁である。
今年の技術選も天候に悩まされた、八方特有のガスに加え季節はずれとも言える降雪に見舞われコースは柔らかくなった。柏木が勝てなかった理由もこの雪の条件が影響していると考えられる。大回りを得意とする柏木は自らがビデオなどでも紹介する「カミソリターン」を武器として技術選を連覇してきた。このテクニックの特徴は切り換え時にクイックな操作で一気にスキーの位置を次のターンポジションまで運ぶという特徴がある。そのためにはターン後半部にしっかりとした足場が必要となる。
今年の八方での大回り系のバーン状況はかなり柔らかめ、強く踏み込むとスキーが潜りすぎて走らないという条件の中で行われた。切り換えでの独特な動きが取れない柏木を尻目に、雪面への柔らかいタッチを身上とする宮下は他の人よりも大き目のターンサイズを上手く表現して大回り系で柏木との得点差を広げた。3月初めから八方入りして大回り系を中心にトレーニングしてきた柏木にとっては得意のロングターンで得点を伸ばせないことは、精神的にもダメージを受けていたに違いない。
もう一つの要因はスキーの特性と柏木のリズムがマッチしていなかったとも考えられる。中ターンを得意とする柏木は足場が作りにくい状況の中、無理して早いリズムで滑ろうとしてスキーの軽快な操作が引き出せなかったのではないかと勝手に推測する。昨年や一昨年と比べると板の動きがそれほど素早く感じなかった。一方の宮下は大回り系でスーパーランを連発、小回り系の穴を全てカバーしても余りあるほどの素晴らしい滑りを連発した。バーン状況とスキーの特性に逆らわない滑りが、美しい流れを生み出していたようである。
女子は白河・本間の争いに山川が割って入った格好で決着がついた。これまで元気がいいと評判だった本間の滑りには「丸み」が加わっていた。最終種目のジャンプ台での小回りは素晴らしいの一言に尽きる。一方の白河はロングターンではトップをとった。しかしその滑りは昨年までとさほど違いは無かったと感じられた。
それでもトップをとれたのは彼女の安定感と状況にマッチさせるタクティクスからではないかと想像される。最終種目のジャンプ台での彼女の暴走にはいろんな意味がこめられていた。いずれ彼女の口からコメントされるとは思うが、彼女の精一杯の自己表現であったような気がする。柏木と白河、二人が三連覇出来なかった理由はなんだろうか。僕としては、彼らが今ひとつ新しい滑りのスタイルにチャレンジしきれなかったからではないかと考える。柏木のロングターン、白河のショートターン、どっちも過去二年間と大きな違いが出せなかったことが原因の一つではないかと感じている。
柏木のショートターンは昨年に比べ、ターンスペースを自由に操れるようになっている、白河のロングターンは内足が少し使えるようになった。それぞれ進化させてきた部分はあったものの、得意種目での進化が間に合わなかった。いやむしろ得意としているから、大きく変えなかったといってもいいのだろうか。いつもあまり得意としていなかった種目で二人はトップをとったのは偶然とも思えないふしもある。やはり得意種目で波に乗れないと、チャンピオンの座は引き寄せられないものなのだろう。
今年チャンピオンになった宮下、彼は昨年から内足の使い方に違いを出してきている。本間は板を雪面にぶつけるようなエッジングから、弧を描く操作へと進化させて八方に戻ってきた。しかし宮下はまだ古いスタイルのショートターンを古いスキーで表現して今年はしのいでいた。
本間もロングターンには一から作り直す必要がある。二人が来期連覇するためには、これらの部分を変えていかないと絶対に勝つことは出来ない。もちろん得意種目も進化させながらの話である。宮下はこの弱点を解っている、おそらく本間も同じだろう。二人は次の一年間で自分の滑りをどう変えていくのだろうか?二人の今期の動向が楽しみだ。連覇の壁を乗り越えるための最低条件は、常に自分を進化させることである。進化させるためには自分がそれまで築いてきたスタイルを思い切って捨てることが出来るかどうかということが非常に重要となる。
自分を捨てる勇気、口では言えるがそう簡単に出来るものではない。自分を捨てられるスキーヤーは必ず上達する、皆さんも自分の感覚の世界から抜け出す勇気をもってみませんか。
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